帝都の外れの経営コンサルタントには、とんちで評判のコンサルさんがいました。彼の風貌はマルコメ味噌のキャラクターに酷似しており、親しみを込めて一休さんと呼ばれていました。
その経営コンサルタントの社長さんは無類の饅頭好きでした。しかし、社員が饅頭を食べることを良しとはしませんでした。なので、あくまでもこの饅頭とみられるものは毒であると言い張り、食べる時は決まって、「これは修行なのだ。うう、苦しい。苦しい。見ているだけでもつらい。ああ怖い怖い」と、苦しそうに呻きながら、パクパクモグモグと毒であるとされている事実上の饅頭を貪り食っていました。
ある日、社長さんが取引先に商談に行った空きを突いて、社員総出で社長の大切にしていた饅頭を食い尽くしてしまいました。しかし、これでは無限に説教を食らうことが確定的に明らかです。そこで、一休さんはPCのケースを開きマザーボードにバチッと一発静電気を食らわせました。
「これで大丈夫だろう」
一休さんはそう呟きました。それを見ていた社員たちはうらなりの茄子が如く不健康そうな色の顔つきになりました。
商談から社長が帰ってくると、大切にしていた饅頭が一つ残らず駆逐されている惨状を目にしました。社長、呆然。そこに好機を逃さんとばかりに現れる一休さん。ここぞとばかりに神妙な顔つきでこう言いました。
「社長が命より大切だと言っていた明日納品のデータがPCごと壊れてしまいました。死のうと思って毒を食べたがまだ死ねないのです」
これを聞いた社長さんは呆れました。
「たかだか饅頭一つで会社が傾くと言うのか……」
社長はその場に棒立ちになりながらぽつりと漏らしました。
一休さんのコンサルティングの評判を聞いて、大企業の社長さんが一休さんを招き入れました。
「早速で悪いのですが、社員たちを諌めてほしいのです。何分替わりは幾らでも居るというのに、日夜わがままを言ってきているので困っていたのです」
もちろん、いい人材が沸いて出て来るわけではありません。しかし大不況時の買い手市場を経験してしまったからでしょうか、社長は神妙な顔つきで、風俗嬢の如く人材は幾らでもチェンジが効くと思ってそうでした。
「本当に酷い人たちですね。それでは素晴らしい人材を雇い入れて差し上げましょう。まずは募集要項を用意して下さい」
「おおっ、やってくれるか」
「はい。もちろんですとも」
一休さんはそう言うと、ねじりはちまきをして腕まくりをしました。そして募集要項を受け取ると、一休さんは社長さんに頼みました。
「それでは、代わりの人材を用意してください。さすれば私が巧みな話術で御社に引き入れてごらんにいれます」
それを聞いた社長さんは、思わず言いました。
「何を言うか!あの条件で良い新人が手に入るわけがなかろうが」
すると一休さんは、にっこり笑って言いました。
「それでは、代わりの人材などどこにでも居ないのですね。それを聞いて安心しました。いくらわたしでも、来ない人を呼び止めることは出来ませんから」
それを聞いて、社長さんは思わず手を叩きました。
「これはなんという頓知だ!報酬を渡すからまた来るがよい!」
こうして一休さんはたくさんの報酬をもらって、満足そうに自社に帰りました。
おしまい。