オタクは複数人で旅行に行ったとしても、大抵目的地のかぶった一人旅のクラスタが出来ているみたいな状態になる。間違いない。何よりも筆者がよく知る鉄研の合宿がそうだった。
では、複数人で旅行するはずだったオタクが現地にたどり着けなかったらどうなるか。
それはもう、計画が狂った旅行というよりかはただの一人旅に成り果てるのではないかと思うのである。
3. 一人旅
観光案内所は17:00に終了する。終了すると、鍵を返すことができなくなる。だもんでレンタサイクルも17:00までに返却しなければならない。
寂れた商店街のアーケードをシャカシャカ走り、まだ若干期限より早かったが自転車を返した。ギリギリまで粘りたいが返せないと悲惨なので早め早めに動くべきだろう。
返して何をするかは考えていなかったが、時間は潤沢だった。
なにせ列車は18時台。まだ一時間以上ある。筆者は昼飯を食いっぱぐれている。これはもう昼飯を食うしか無い。そう考えた。そして思った。食えるならすでに食っていると。
実を言うと、数時間前に山居倉庫でこの先の塩梅を決めかねていたのだ。
まだ昼ごはんを食べていないようであれば、海鮮市場に行くと良いかもしれませんよと人のいい観光案内所のおっちゃんが行っていたので、俄然機運が高かったのだ。海の幸の出汁が効いたラーメンも有名らしいとそのおっちゃんは言っていた。何よりラーメンは筆者も大好物である。これは行って食べるしか無い。そう思っていた。
GoogleMapを開き、ラーメンと検索して海鮮市場の周辺のお店を見た。
営業時間外だった。
ということで、悲しみを抱えながら中心市街地での昼飯を泣く泣く突放したのである。
しかし一度ラーメンが食べたいとなるともうラーメンを食べるまでラーメンのことしか考えられなくなる。ここは是が非でもラーメンが食べたい。
GoogleMapで検索すると、徒歩10分くらいのところになんとか一軒ラーメン屋があるという。
しかも営業時間内と来た。
渡りに船ということで、そのラーメン屋に向かった。
ラーメンはすこぶる美味かった。
海産系の出汁の効いたスープと、縮れた平打ち麺が特徴っぽかった。
美味かった。
何もかもが満たされ、上機嫌で駅に戻った。
まだ30分近くあった。
暇だった。
使わなかった乗車券の払い戻しをして、適当にミリシタなどをやりながら、列車の到着を待った。
2~3曲くらいやっていい塩梅になったので、ホームに向かった。
適当に待っていると、常磐線で見慣れた奴が滑り込んでくる。
乗り込むのは最後尾の1号車だ。
1号車には殆ど人が居なかった。
社会的距離が保たれていると言っても過言ではなかろう。
最後尾まで行くと、2人の見知った顔があった。
籠原氏と柏氏である。
ここで筆者は今日はじめてオタクと合流したのである。
オタクと合流し、代理で買ってもらっていた料金券を購入し、テーブルを出して手早く酒盛りを始めた。
何分新庄で買った四合瓶があるのだ。四合瓶は一人で飲むにはやや険しい。なのでここでできるだけオタクの胃の中に放り込み、アセトアルデヒドに分解してもらいたい。
酒と一緒に買っておいたプラコップをオタクらに渡し、だばだばと日本酒を注いだ。
オタクはオタクで酒蔵で日本酒を買っていた。二合瓶と小さなカップを取り出してそちらはそちらで振る舞い始めた。
いい具合にグリーン車の車内の治安が悪化していく。
幸か不幸か、我々3名を除き乗客は他に誰一人として居なかった。
暗くなりつつある車窓を眺めながら酒を飲み、今までの顛末について各々語り合った。
籠原氏は、間に合わないと思った時点で稲沢氏に連絡して載せてもらえばよかったじゃんと言っていた。一理あるが険しいことはすでに新庄で検討していたとおりである。
他にも、貸切の車内で二次創作同人誌を頒布する猛者が現れたり、色々な話をしていた。行けなかったことだけがただただ癪であった。
列車は真っ暗な日本海沿いをガタゴトと進んでいた。
プラコップが空けば次々だばだばと日本酒が注がれていく。
ものの30分ほどで、四合瓶は空になった。
貸切でないと捌けないかと思っていただけに、ただただ驚いてた。
職場の話とか、仕事の話とか、様々な話に花を咲かせつつ、あれは村上を過ぎた頃だったと思う。3合は飲んでいたかと思われる籠原が重力にオーバーリアクションをしながらトイレへと向かっていた。
俗に言う、マーライオンであるとのことであった。
筆者は昼飯をなぜか直前に食っていたこと、ペースも氏と比べると遅く、何より氏ほど飲む前に全てが無くなっていたのでマーライオンになることはなかった。最近はいつもこうなんだよと語る彼、毎日帰り際に檸檬堂を空けて帰宅していたが最近は檸檬堂を1時間くらいかけて飲む筆者、一体どこで差がついてしまったのか。差がついた方が肝臓には良い気もする。肝臓に良いならだいたいヨシ。何も考えないことにした。
結局新潟まで5回位トイレに向かい、新潟では対面に止まっているE4系に吸い込まれていった。対面だったので良かったなという感想しか無かった。何よりもあれで階段なんか降りられたら心臓に悪い。いくら本人が大丈夫だと申告していてもだ。
ここでまた筆者は一人になった。
高架になった新潟駅には初めて来るので、その見慣れない光景に何もかもが変わってしまったことと、その変わりようにただただ驚くばかりであった。正直在来線ホームなのに新幹線ホームにしか見えず、微妙に居心地が悪かった。まあ、この駅は今となっては新幹線ホームの方がよほどボロいのだがそれは別の話。
高架になったとはいえまだ高架化工事の最中なので、仮設の通路を通って改札へと向かう。
階段を降りて少しばかりのストレートを進むと、よく見慣れた光景が目に入ってきた。
これは、あれでは?地上駅時代のホームでは?解体したんじゃなかったのか?と思いながらその旧1番線を道なりに進んだ。
それはもう見慣れた光景だった。
何も変わっていなかった。
古ぼけた看板も、発車標も、改札前の売店も。何もかもが、昔のままだった。
5年くらい前とさして変わらない光景に感動するとともに、思った。
お前解体されたんちゃうんかと。