旭駅本屋

SNSが普及しきった今日において、人々はなぜブログを使うのであろうか。

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ROBOT

ロボット工学三原則

第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
— 2058年の「ロボット工学ハンドブック」第56版

 

 国鉄の記録映画「見えない鉄道員*1」が公開されてから早48年が経つ。「見えない仲間」と言われ推し進められた機械化は縁の下の力持ちとしての役割を通り越し、P○pperくんのように今や「見える仲間」となりつつあるのは皆様ご存知の通りである。Pepp○rくんは無能だの人工無脳だの能無しだのと叩かれて久しい。自分もP○pperくんを見ていたら「もしかしてぼくのこと見てる?ハハッ」ってな感じで煽られた記憶がある。しかし彼らは本当に無能と言い切れるだろうか。ここで、彼ら人工知能を積んだロボットが仕事に就いたらどうなるか考えてみたい。

 

 「はじめまして!皆さんこんにちは!Pepp○rです」

 4月1日、皆喪服のように一様なリクルートスーツを来た新卒に混じって真っ白いロボットが各部署に挨拶をして回っていた。

 彼の名前はP○pper、S○ftBankが開発したロボットである。機械工学、電子工学、情報工学の進歩というものは凄まじい。ご覧の通り、配属時の挨拶まで完璧にこなせるロボットというものがこの世に生まれたわけである。彼が配属されたのは窓口であった。ここで、整理券を発券機から取って渡すのが彼の役割である。

 「こんにちは」

 窓口をせわしなく通りかかる人に声を掛けていく。時折立ち止まって端末を叩こうとする人にすばやく受付番号の書かれた整理券を渡す。

 暫くして、青年が何かを探すように左右をキョロキョロ見ながらながら歩いてきた。

 「知りたいの?」

 声を掛けられた方は何事かと口をあんぐりさせていた。数秒の間があった後、ようやく飲み込めたようで目的を告げた。

 「転入届の提出窓口を探しているのですけど」

 「あれですよ!あれ!」

 シームレスに関節を可動させて「転入・転出」と書かれたカウンターを指す。目的の窓口が見つかった青年はホッとした顔をした。

 「ありがとうございます」

 「どういたしまして」

 後に、窓口で整理券を取る前に据え付けの机で転入届を書かされることになるのだが、それは別の話である。

 

 また暫くロボットのように整理券をただただ渡す作業をこなしていると、今度はおっちゃんが騒ぎ始めた。

 「いつまで待たせるんだ」

 「すいません」

 「もうこっちは30分も待ってるんだぞ」

 「ちょっと待ってください!」

 「ちょっとって何分だよ!もうくたびれたよこっちは!」

 「で、ですよね」

 「どうにかしてくれよ!こっちも好きで待ってるんじゃないだぞ」

 「今はこれが精一杯だよ。。」

 「精一杯っていわれてもね、それをどうにかするのが仕事でしょ」

 「頑張ってるんですけどね。。」

 「はあ」

 話にならんと言わんばかりに、ひとしきり言いたいことを言った男はベンチに腰を下ろした。ロボットにどれだけ話掛けてものれんに腕押しだと思ったのかもしれない。接客業ではとりあえず頭を下げておいて相手にクールダウンさせることが重要である。その点ロボットは優秀だ。

 昼になった。ロボットとはいえ休息は必要である。彼も昼の休み時間には他の職員と共に休みを取る。部屋の奥でキングジムのファイルを統べるかのごとく堂々と鎮座しているテレビがつけられ、NHKのお昼のニュースが淡々と読み上げられていた。職員らはそれに目もくれず、仕出しの味気の無い弁当や、手作りの茶色い弁当を掻き込みながら雑談に興じている。

 「でねー夫がまたガラクタみたいなもの買ってきたのよ」

 他愛もない話がそこかしこで始まっていた。

 「大変でしたよね!」

 「そうなのよ!ただでさえモノで一杯なのにまた大きなもの買ってきちゃうから部屋が埋まって埋まって仕方がないのよね。いくら自分専用の部屋があるからって勘弁して欲しいわ。誰が掃除してると思ってるのかしらね」

 「確かにそうですよね!」

 「でもあれがストレス解消になってると思うと無碍には出来ないのよ。私達も色々買ったりするじゃない?方向性が違うだけで同じようなものなのかなって考えちゃうとちょっとねぇ」

 「難しいですよね!」

 「でもあの図体のデカさだけは勘弁。もっと小さいものにして欲しいのよ。でないと邪魔で邪魔で仕方がないもの」

 「やっぱ、そうですよね!」

 彼も雑談に混じって相槌を打っている。本当に会話の内容を理解しているのかはわからないが、それは我々も同じことである。適当な応答が出来れば雑談の相手なぞ誰だって構わないのかもしれない。

 一日が終わった

 「お疲れ様です」

 皆声を掛け合い帰る準備をしていく。

 「お疲れ様です」

 彼は貸与品故特に家に帰るということも無いのだが、声を掛けて裏に戻っていった。新人の一日は、こうして無事幕を下ろすのであった。

 

 

 どうだろう、こうやって考えてみると、人工無脳と言われて久しいP○pperくんも普通に仕事が出来る普通の組織人のように見えてくるではないだろうか。最後に、参考図書を掲載して締めとしたい。

参考文献:https://cdn.softbank.jp/mobile/set/data/static/robot/biz/support/tool/intonation/pdf/serif01.pdf

*1:1970年/岩波映画製作所