旭駅本屋

SNSが普及しきった今日において、人々はなぜブログを使うのであろうか。

RSS

 

二次創作短編

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部君が悪いんだよ!君が!

「(あれ?)」

ぼくがどれだけ君を思っても、君はとっかえひっかえ他の女の子とイチャイチャし始める!

「(なんだこれ?)」

遠回りだと伝わらないからって直接的に誘っても乗ってくれないし!

「(薄暗い部屋の中で、私が彼に馬乗りになっているのが見える)」

嫌いなら一思いに嫌いと言ってくれ!そうすればまだ諦めがつく

「(なんで怒っているんだろう、私)」

ぼくはもう、ぼく自身の気持ちが抑えられそうにない

「(何を言って――)」

ぼくは君の、一番大切な人になりたい。

 

そう言って、目の前にいる私は彼の首に手を掛けた。
「やめろ!」

 

目の前には薄暗い見慣れたクロスの部屋があった。

一人しか居ない静かな部屋に、高鳴る心臓の音が響く。

カーテンの隙間から光が差し込んでいた。

上がった息を整えて一息つく。

周りには見慣れているもの以外何もない。

 

夢か。

嫌に寝覚めの悪い夢だった。

 

夢は個々人の願望が現れるという。そうなると私の願望はあのサスペンスホラー劇場ということになる。

嫌に現実的で生々しい。それでいてどことなく現実離れしていて、かといって明確に否定できるものでもない。

あの夢に出てきたのは私と彼。

私は一体彼に何を思っているんだろう?

第一一番大切な人って何?私は彼と友達になりたいだけなのに。

ゲームのことや、学校のことを話し合って、休日にお喋りして、そんな他愛もないただの友達。

一人で歩くのは思考に絶好の機会だ。

大抵宿題や祖父の論文のことを考えているけど、今日ばかりは流石にそんな気分にはなれなかった。

空は底抜けに青く、心はからっ風が吹き抜けるかのように空っぽで、思考で埋めるにはいささか深い穴をどうにか埋めようとしていた。

結局空虚な思考は回し車のように同じところを回り続けるばかりで、反面道のりは進むばかりで、何も結論が出ずに学校につくのであった。ちゃんちゃん。

いつもこうなんだよな。

何かを思うのに、何も出来なくて結局同じところをぐるぐる回り続けるの。

なんかどうでもよくなってきた。

帰ったら気晴らしにアストルムでもやろう。はやく授業終わらないかな。

 

「なになに?由仁ちゃん、考え事?」

「……わ!星野さん!全然全然。なんでもないなんでもない」

「……ふーん。あんまりそうは見えなかっったけど。そうだ!あのねあのね。弟くんが――」

まずい、これは長いやつだ。

そう直観した。

直観したときには既に遅かった。

 

私は彼に好意を抱いている。

彼は私に好意を抱いているかわからない。

彼女も彼に好意を抱いている。

彼女は彼が好意を抱いていると疑わない。

今はただただ彼女が羨ましい。

ずっと私の感情のことを考えていた。

頭の中でぐるぐると、彼と私と彼女と彼のことが浮かんでは消えていった。

私にとって彼は何?友達?

アストルムを開けば彼に会える。アストルムだけじゃない。喫茶店に行っても会える。

でもだから何?それは友達と言えるの?

友達って何?

 

なんとなく彼が居る気がして、帰り道喫茶店に寄った。

茶店に彼は居た。

可愛い店員さんと楽しそうに喋っていた。

あの子は誰だろう。私よりも付き合い長いのかな。

……何してるんだろう、私。これじゃまるで覗きみたい。

私は逃げるように家に帰った。

 

アストルムに行けば彼に会えるかもしれない。

彼に会って私はどうするんだろう?

何もかも面倒くさくなってきた。端末をセットすればいつでも入れるけど、それすら億劫だ。

でも入らないのは何かに負けた気がしてならない。

といっても入るのも何かに屈したような気がする。

まただ。いつもこうなる。どうしようもない。私。

 

結局アストルムにログインした。

彼は他の子と楽しそうにマルチプレイしていたので、私はそっと挨拶だけしてその場を後にした。

いや、そこから逃げた。

なんとなく、夢の中の彼女のことが理解できる気がした。

あれは本当に私の願望だったのだろうか。

もしそうなら……

いや、流石にないだろう。

今日は疲れた。

 

 

 

 

 「全部君が悪いんだよ!君が!」

まただ……

「ぼくがどれだけ君を思っても、君はとっかえひっかえ他の女の子とイチャイチャし始める!」

「遠回りだと伝わらないからって直接的に誘っても乗ってくれないし!」

彼はいつだってそう。私のことなんかちっとも見てくれなくて

「嫌いなら一思いに嫌いと言ってくれ!そうすればまだ諦めがつく」

「ぼくはもう、ぼく自身の気持ちが抑えられそうにない」

だからって何もそこまでしなくても良いと思うけど。

ふっとため息をついた。

つけるものでもない。夢なのだから。変なの。

「どうなんだい?」

急に向こうの私が目を上げた。

「そこにいるぼくは」

私?

向こうの私は腕からスッと力を抜いて座り直した。

「ぼくは彼のことが気になるんじゃあないのか?だから一日中彼のことで頭がいっぱいになっていた」

違う。いや、違くないけど。でも違う。こんな夢を見て、平然としていろというのも無理な話だ。

「じゃあこれはなんだ。ぼくはまた彼の夢を見ているじゃあないか」

それは……。

それは昨日の夢のことばかり気にしていたから。

「彼のことを気にして、放課後そわそわしていたのはなんだったんだい?」

それは……。

「結局、ぼくは一体彼の何になりたいんだ?」

ぼくは……

ぼくは、やっぱり彼の一番になりたい。

 

 

寝覚めの悪い朝だ。

薄暗い部屋には見慣れたクロスが掛かりカーテンから朝日が漏れる。

枕元の目覚ましは口うるさく朝が来たことを告げている。

掛け布団を退けて、伸びをする。

「おはよう世界。今日も欺いているね」