旭駅本屋

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乗りつぶし

気がつけば18券シーズンであった。

シーズン開幕を労働で迎えた筆者ではあったが、18券シーズンであることを友人より伝えられ、これはもう買うしか無いと券を買ったまでは良かった。行く先がそうないのだ。そう難しい話ではない。行く場所があるからこそ旅に出るのだ。行く場所がない手前旅に出る理由はない。行きたい場所が無いわけではない。糸魚川のデンカ、北九州のくろがね線、未だに乗らず放置しているあき亀山までの可部線復活区間、色々行きたい場所こそある。あるが、遠いのだ。18券で行くようなところではない。もっと手軽で、かつ適当に日帰りで行けるような、そういう理由が求められていた。

温泉も程々に行ったし、あんまり無いよなぁと思って思案していたその時。

 

そんな都合の良い理由が都合よく思い浮かんだのである。

 

 

そう、他でもない乗りつぶしだ。

 

筆者は乗り鉄である。

乗り鉄であるなら大抵の場合乗りつぶしなどをしたりするものかと思う。

実のところ筆者もやっていた。

た、というのは最近やっていないからだ。

最近やっていないのも理由がある。

温泉に行きたかったからとか、程々に撮るようになったとか、そういうものではない。

 

 

 

 

 

 

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近所の乗れる路線がなくなってきたからだ。

 

 

無い、マジでない。いや、無いは厳密には嘘だ。見て分かる通り、関東地方に輝く青紫の路線があると思う。

 

吾妻線だ。

 

吾妻線八ッ場ダムによる付け替えでできた新設区間に乗っていないのだ。

まあ、近いしじき乗るでしょうと放置してはや7年。乗らなかった。吾妻線は微妙に遠かった。遠い上に特に大してうま味が無い。うま味のない路線を単純往復できるほど筆者はストイックではない。他に時間の使いみち有るやんになってしまう。しかし、どうだろう。八ッ場ダムに沈んだ駅は川原湯温泉駅であった。温泉と付いている通り、温泉がある。これはもう行くしか無いだろう。ついでに乗りつぶしもできて一石二鳥というわけだ。

 

 

2022/03/13

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親の顔より見た光景。

 

高崎駅に来ていた。何ヶ月ぶりだろうか。

ここで万座・鹿沢口行きで川原湯温泉を目指す。大前行きに乗らなくてよいのは実に楽でいい。こういうところで、変にちゃんと乗りつぶしておいて良かったと思えてくる。

 

ごくごく一般的なロングシートの211に座り、微妙な腹痛にやられながらゴトゴトと温泉を目指して進んでいく。

渋川辺りを出てふと気がついた。

川原湯温泉に行くだけだと乗りつぶしにならなくないか?

そう、付替え区間は前後の長野原草津口から岩島の間であるのだ。なので、川原湯温泉単純往復だけだと長野原草津口川原湯温泉の間が乗れていないことになってしまう。これは如何ともし難い。長野原草津口まで歩くなり、電車で戻るなりして折り返せば大丈夫ではあるが、徒歩は5kmと結構長くあまり現実的な選択肢ではなかった。電車も今の時刻から勘案すると、行って戻ってくることは技術的には可能だが、降りて向かいに止まっている電車に乗り込んで戻るのはなんか微妙だ。ムーブがただの奇人であるし、どう取り繕ってもまだ盲腸線単純往復のほうがマシだろう。

つまるところここは長野原草津口まで乗ったほうが良いのだろう。

長野原草津口まで乗るということは、つまるところそういうことになる。「18券だと地味に遠くて遠いんだよな。あそこなら上州湯めぐり号で行けばええやん」と思っていた時期が多分にあった。ただ上州湯めぐり号に乗ったことはなかった。上州湯めぐり号も高いし時間がかかるのだ。だもんで今までろくに調べたこともなかったが、まあ、有名所だし行けば何かあるだろう。

 

 

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ハイデッカーのバスが1台満車になり、ほかは程々に各停便に流れるくらいの乗客だった。客を満載した急行便はノンストップで草津温泉駅へと向かう。向こうの車線には山から下るJRバスが3台連なってやってきたりする。流石に超有名温泉地なだけはある。

何もないただの山道を進んでいくと、大きな道の駅が出現する。道の駅を超えると一気に坂を下る。坂を下るにつれて、どんどんと背の高いビルが増えていくのが見える。他でもない草津温泉である。山の中の一角にビル群が出てくるという光景はGoogleMapで見て異様に思っていたが実際見てみても結構異様な光景だった。

 

運賃箱にカネを入れ、ターミナルを名乗る草津温泉駅に放り出されてやっとやるべきことを思案していた。

特にやることは決めていない。いい具合に帰るには14:40のバスに乗ればよいということだけは調べていた。お昼時である。飯屋は混んでいる頃合いだろう。今のうちに手早く観光と風呂を済ませておくに限る。

 

 

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バス駅から急な坂を下ると湯畑に出られる。草津といえばこれ、この写真を見れば100人が100人草津温泉と答えるであろう激映えフォトジェニックスポットである。当然観光客も多かった。多いがキャパも広いので、見るだけなら普通に見られる。実は筆者は草津に来たことがなかった。なので湯畑も見たことがなかった。見て思ったのが、写真で見て思ったより湯量が多いということだ。実際音もビジュアルも滝か何かのようであった。何条にも別れて伸びる樋はゆったり流れているかと思わせてそこまででもなく、一条にまとめられた流路はジャバジャバと字面通りの音を立てて吐き出されていた。あれは洗掘しそうだ。樋の外は外で溢れたのか樋に入らなかったのか湧いて出てきたのかよくわからない素性不明な湯が結構な量垂れ流されていた。流量不足で循環に次ぐ循環を繰り返している温泉地の人が見たら卒倒する光景だと思う。ただただ凄かった。

 

 

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少し離れると宿屋しかない一角に出る。そう離れていないのに観光客はめっきり減った。この辺に有る千代の湯というところが公衆浴場であるという。公衆浴場と言っても無料で入れる温泉地でありがちな奴だ。事前に調べたがカランが無いっぽい。この類の金を取らない共同浴場は観光客が入ることを概ね想定していない。荷物は最小限で、適当に桶に石鹸を入れて近所の人がゴシゴシしにくるくらいのユースケースを想定しているものだ。大抵脱衣スペースは狭いので、脱ぐのにもたつくのは非常に心苦しいところだ。今は冬である。そして日帰りの旅行者である。条件はかなり悪かった。誰も居ないならそれでも入るかと思っていたのだが、男湯の扉を開くと靴が一脚置かれていた。先客がいるならやめておこう。大抵浴槽も小さく、余所者ゆえ肩身も狭い。悪条件の中で行くのはやめるべきだろう。

 

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この後地蔵源泉付近にある地蔵湯を見るも先客2名、白旗の湯は先客4名のようで、まあ大人しく観光客向けの日帰り入浴施設に行きますかと意を決して御座之湯へと向かった。

ちなみに地蔵源泉は見た目綺麗だったのでちょっと遠いし道がわかりにくいけど行くべきだと思う。運が良ければ共同浴場も空いているかもしれない。

 

 

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御座之湯は一般的な公衆浴場である。600円。まあまあのレートだが、法外というほど高いわけではない。ただバスタオルを持ってこないと1700円取られる。これは結構高い。3軒ある有料の公衆浴場全部回れるお得で便利なチケットを買ってもお釣りが来る程度の価格帯だ。

番台とはあんまり言いづらい雰囲気のカウンターで600円払って中に入る。

中は普通のスーパー銭湯みたいなものだった。ちゃんと鍵付きロッカーもある。カメラとスマホと財布を突っ込んで、手早く区画に脱いだ服とカバンをねじ込み、浴室に向かった。

浴室はほどほどに広かった。広いだけではない。ちゃんとシャワーもあった。プリセットでボディーソープとシャンプーまであるのが有り難い。まず体を清めて、その上で内湯に入った。ちなみにここは内湯しか無い。

丁度いいくらいに温かい湯だった。

湯畑では硫黄臭がムンムン立ち込めていたが、ここはそこまでくどくない。源泉は同じようなのだが。量によるものなのか、湯の花が溜まっているからなのか、配送でマイルドになるのか、よくはわからない。もしかすると感覚が狂っているだけなのかもしれない。

2分くらい浸かっては出てを繰り返した。冷静に考えると空腹で風呂はちょっとまずかった気がする。3セットもすると限界に達した。これ以上は体に差し障るので、ちょっと早い気がしたが風呂を出た。

 

 

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まだ時間があったので、土産物屋の並ぶ通りを徘徊した。

皆思い思いに自分の土地に建物を立てて、思い思いに道を引いたかのような、秩序の無い道の作りをしている。本来道というのはそういうもんなんだろう。欧州の町並みとかを見ていると似たような混沌さがある。人が通れれば良いのであればそれで事足りるのもまた事実である。

小洒落た酒屋があったので適当に入って地のものっぽい酒を買った。店前では燗酒を作っていた。熱源は温泉だろうか。

他にも酒屋があったので別の銘柄が有るんじゃねと見てみたが、日本酒のラインナップはそう変わらなかったので撤収した。店内には温泉むすめのパネルが立て掛けてあったが、流石に店内なので撮るのもはばかられた。

 

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まだ若干時間があったので、お寺にお参りをした。

参道から見える湯畑はそれなりに画になり、高まっていた。寺は素人目には普通のお寺のように見えた。

 

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流石にいい塩梅だったのでバス駅に戻り、帰りの乗車券を買った。

「2番乗り場に並んでください」と言われてJR地紋の軟券を渡される。ドアを出ると2番乗り場はすぐ見つかった。見つからないのは列の終わりだ。なんか乗り場の端まで並んでいるようだ。2番の端ではない。バスターミナルの端にある7番の端だ。端まで進んでいくと更に列の終わりが見えなくなった。そこは終わりではなかったのだ。なんかあからさまに敷地の外の公道まで伸びているように見える。乗れるん?これ。

並んでいる間にも列はどんどん伸びていく。しかし進むのも早かった。客を満載したハイデッカーバスがバス駅を出たかと思うと乗り場に空車の続行便が到着する。というかそもそもいま出たバスも続行便だと思う。増車に次ぐ増車で誰一人残さず運ばんとする意気込みを感じた。「これ乗れますかね?」と後ろに居た観光客グループが案内の人に聞いていた。「特急には乗れると思いますよ」と答えていた。多分特急には頑張って連絡させるんだろう。メチャクチャな勢いでバスは客を運んでいた。お陰で列の割には待たずにバスに乗れた。一人だったことも大きかったと思う。

 

乗る予定の普通は特急の後に出るので、特急に間に合うなら後の便でも良かったのはここだけの話である。

 

 

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長野原草津口駅は静かだった。それもそうだ。列車までまだ十二分に時間があるからだ。机上の乗換案内ではなんでこんなにバスの接続悪いんだろうと思っていたが、バスの接続が悪いのではなく、積み残しが出ようが概ね接続できるようにスジを引いた結果があれだったとすればかなり納得がいくし、まあ理解は出来るし、間に合うだけありがたい話なのでそこまで不満はなかった。不満はないとはいえ、暇なもんは暇だった。

 

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バカと煙は高いところへ登る。

バカなので登った。

なんか地図を見るといい具合に廃線跡があるらしい。

ルートもちょうど良さそうだったので、そのまま向かった。

 

 

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土工と思しき擁壁は壊されているのに、橋梁は手つかずというなんとも言えないシチュエーションだった。河川区域内で管理者が違うのか、誰も資産を引き継いでいないのか、よくわからんがなんでか橋梁だけぽっかり残っていた。

時間も時間なので、見るだけ見て手早く戻った。

 

 

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この後は普通列車を乗り継いで、ゆっくりゆったりのんびり家に帰るのであった。